読書メモとか、なんか書きます。

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断頭台のあずにゃん ───アウラの自害と《奇跡》への祈り

 テレビアニメ『葬送のフリーレン』が大人気だ。特に、魔王直属の手ごわい魔物だった「断頭台のアウラ」がフリーレンに敗れ自害するシーンがTwitterを中心に話題となり、以下のような二次創作も投稿されている。


 オタクどものTLではアウラの自害が延々と繰り返される。それ自体は一時の流行にすぎないとしても、それを支えている精神はどういったものか。なぜ、私たちはアウラの自害をこの目に焼き付けなければいけないのか。


 ひとたび想いを馳せると、「アウラ」という名前の意味を考えざるを得ない。繰り返される二次創作(複製芸術!)を通じて、アウラというキャラクターの〈アウラ*1もまた凋落するだろう。アウラは二度死ぬ。それどころか何度も死ぬ。大量に複製された自害を通じて〈アウラ〉が凋落するという意味において、アウラは二度死ぬのである。

 とはいえ、〈アウラ〉そのものが何であるかを語ることはおそらく誰にもできない。それは量産される複製芸術を通じてその凋落が看取されたとき、辛うじて顕現する影のようなものでしかない。よって、アウラもまた繰り返される死を通じて、辛うじてその存在の影を捉えることができるのみである。


 アウラとは何者だったのか。
 それは定かではないが、確かに何者かではあったのだ。アウラはいわば器のようなものであり、何者でもなかったが、何者でもあり得た。よって、私たちが向き合うべきは「アウラとは何者だったのか」ではなく、「アウラとは何者であり得たのか」という問いである。それは、数多の複製芸術が量産される欲望の在処を探り、私たち自身の精神を見つめ直すための問いに他ならない。


 アウラは器である。だとしたら、それは姿かたちによっては明らかにならない。そこに満たされたものによって、つまり形ではなく質によって把握しなくてはならない。アニメのキャラクターに質を付与するもの。それが〈声(パロール)〉である。

 〈声〉は常に〈いま・ここ〉で発せられ、本来的な〈アウラ〉としての質をキャラクターに与える(かのようである)。アウラアウラ足らしめているのはアウラの〈声〉であり、具体的に言えば、当然のことながら声優の竹達彩奈である。

 ……竹達彩奈??

 ……竹達彩奈の声!?


 あずにゃん!!


 竹達彩奈といえば、言うまでもなく歴史的な名作『けいおん!』シリーズの主要キャラ、中野梓ことあずちゃんを演じた声優である。アウラから発せられる〈声〉は、あずにゃんだった!
 本来〈いま・ここ〉に現れるはずの〈声〉が幾星霜の時を経て回帰した。奇跡のような会合に眩暈を覚える。否、それは確かに《奇跡》だ。あずにゃんは天使だったのだから。

teramat.hatenablog.com


 そもそもどうしてアウラは自害に追い込まれるに至ったのか。
 アウラは自身と相手の魂を天秤にかけ、天秤の傾きによって相手を支配する。彼女は長きにわたって研鑽を重ねた自らの魂の“重さ”によって無敵を誇っていたが、それを凌ぐ魂の“重さ”をもつフリーレンによって自害を命じられる。要するに、アウラは魂の“軽さ”によって自害に至る。

 アウラの魂の“軽さ”は、そこに宿った天使の“軽さ”である。天使は軽やかに舞い、〈いま・ここ〉を超えてあらゆる場所・時間に降り立つ。〈いま・ここ〉でしか発せられないはずの天使の〈声〉は、様々なキャラクターを通じて世界に偏在する。これを《奇跡》と呼ばずして何と呼ぼう。


 アウラの自害が延々と繰り返される理由は明らかである。アウラは魂の“軽さ”によって死ぬ。その自害は“軽さ”の証明なのだ。アウラの死を通じて私たちは天使の《奇跡》を目撃する。───幾星霜の時を経て、天使が空から舞い降りる...



 言うまでもないことだが、二次創作から私たちに〈声〉は聞こえない。複製芸術に〈アウラ〉は宿らない。しかし、聞こえないからこそ、私たちはアウラに延々と死を繰り返させる。その作業は逆説的に天使の降り立った痕跡を示すだろう。私たちはそれを《奇跡》と呼んでいるにすぎないのかもしれない。

 それでも、今日もきっとTLでアウラは死ぬ。延々と繰り返されるアウラの自害そのものが、天使に捧げる祈りなのだ。

 あの輝かしい青春も、巨大な悪と戦う冒険も戻ってはこない。すり減った日常の中でかつてあった〈いま・ここ〉の痕跡を探し求める作業は、奇妙なことに『葬送のフリーレン』という作品のモチーフにも通底するように思えてならない。

*1:あまり僕もよく分かっていない。一般的な定義は以下等を参照。 https://artscape.jp/artword/index.php/%e3%82%a2%e3%82%a6%e3%83%a9